沿革

ありがとう

 H君は1歳6ヶ月です。最近は言葉も随分覚え、保育園の人気者なのです。彼がいちばん最初に覚えた言葉は、多分「あーがとう」(ありがとう)だったように思います。H君のお母さんは、いつも夕方5時半頃迎えにこられます。2・3日前のことでした。彼はおかあさんに抱っこしてもらって、当番の先生に「あーがとう」といいました。「ありがとう!さようならまた明日元気で来てね」

先生はニコニコしながら、H君の手をにぎったまま、お母さんに話しかけました。

「この頃、『あーがとう』が上手に言えるようになりましたね」

お母さんはH君の頭をなでながら、とてもうれしそうです。

「おうちでも、『あーがとう』『あーがとう』って、どんな時でも『あーがとう』なんですよ。だからね私『あーがとう』いわなくてもいいよっていってるんです。」そばにいた私は、思わず声を出しました。「へぇーそらまたどうして?」

「だって親子でしょう。みずくさいっておもうんですよ」これには驚きました。「ありがとう」や「ごめんなさい」は人と人をつなぐ大切な言葉です。言わなければならない時には教えもし、言えたらほめてあげる。何よりも大人の方から子供に「ありがとう」を言うことです。それは人間が人間に育つための大切な条件でもありましょう。私はお母さんに心をこめて説明しました。「そうなんですか、私、勘違いしてました。これからは気をつけますわ。ありがとうございました」親子はうれしそうに抱き合って、薄明かりの町へ帰っていきました。

丁野恵鏡師「育てあうこころ」より

子供は親の鏡です。子供は知らず知らずのうちに、言葉や態度など生活習慣の細かいところまで、お母さんそっくりになっていきます。

 「ありがとう」や「ごめんなさい」が、親子の間でも素直に言えるようになれば、お互いに相手をよく理解し、認めあう世界が開けてきます。

 家庭教育とは、お父さん、お母さんが子供を育てるという行為を通して、実は自分自身を見つめ直すことではないでしょうか。

『聞法(1994(平成6)年8月1日発行)』(著者 : 西郷 教信)より