沿革

熊はんと御隠居が読む阿弥陀経:その1

 お経というと、わけのわからない、難しいものと世間では言われておりますが、ここでも熊さんが御隠居に尋ねております。
しばらく聞いてみることにしましょう。

   「こんちはー、御隠居はん、いたはりまっか。」

御隠居 「なんや、熊はんやないか。えらい剣幕でどないしたんや。」

   「どないしたんとちゃいまっせ、ちょっと聞いとくなはれ。この前、親戚の法事に呼ばれましてな。」

御隠居 「ほお、熊はんでも法事に行きますんかいな。感心なことやな。」

   「せやから感心なことやなとちゃいまんねん。その時のくそ坊主が、いっしょに読めいうて、お経を渡しよりまんねん。わてら、生まれてこのかた、お経は焼香する時の伴奏ぐらいにしか思とりまへんでしたから、面食らいましてな。その後にまた、そのくそ坊主が、お経は、あんたらが聞くもんで死んだ人に聞かせてんのとちゃうねんで、とぬかしよりまんねん。」

御隠居 「これこれ熊はん、くそ坊主とはなんやいな。お坊さんといわんかいな。」

   「けど御隠居はん、くそ坊主とも言いたなりまっせ。わからん字がぎょうさん並んだるもんを読めやなんて、坊主て死んだ人にお経読んでなんぼのもんちゃいまっか。」

御隠居 「こら、熊はん。ええかげんにしんかいな。そのお坊さん、いっしょに読もうといわはったんやろな。なんで、そないなこといわはったかわかるか。」

   「いやあ、なんでっしゃろな。そういや、お経が終わってから、なんやぐだぐだ話とったな。わては、後のご馳走のほうが気になって、気になって。」

御隠居 「熊はん、それやったら法事やのうて、食事やないか。その話しが大事やったんやで。」

   「そうだっか。で、どんな話してましたんやろな。」

御隠居 「そやな、多分いっしょに読んだお経の話しやったんやろな。どや、熊はん、そのお経持っといで。わしといっしょに読んでみよやないか。」

   「そうだっか、そらおもろそうでんな。今の今までお経に意味があるやなんて知らなんだからなあ。そしたら、お経持ってきますわ。ちょっと待っといとくなはれ。」
こうして、熊さんと御隠居は阿弥陀経を読んでいくことになりました。

『聞法(1995(平成7)年9月1日発行)』(著者:義本弘導)より