沿革

熊はんと御隠居が読む阿弥陀経:その5

御隠居 「そしたら、次にいこか。」

   「ちょっと、待っとくなはれ。このお経見てたら、『仏説阿弥陀経』と今の『如是我聞』の間になんか書いてまっせ。なになに、『ようしんのさんぞうほっしくまらじゅうしょうをうけたまりてやくす』となってまんな。」

御隠居 「熊はん、よう読めたな。」

   「いや、横の仮名読みましてん。」

御隠居 「なんやそうかいな。せやけど、そこに気ついたんは感心やな。そこはお勤めでは読まんとこやな。ほれ、鳩摩羅什とあるやろ。」

   「へえ、あんた、寝不足か、目の下くまらじゅう、なんてね。」

御隠居 「これ、ダジャレいうてどないするねん。これはな、人の名前なんやで。」

   「へえー。何した人でっか。」

御隠居 「このお経を訳した人や。お経というのはインドの古い言葉で書かれてたんや。それを中国に持ってくる時に中国語に訳したんや。」

   「なんや、そんならやっぱり目の下くまらじゅうでんがな。」

御隠居 「なんでや。」

   「その人、阿弥陀経訳すのに、夜遅うまでかかったんでっしゃろ。せやから夜更かしして目の下くまらじゅう。」

御隠居 「何あほなこというてますんや。これはな、姚秦の時代と言うから、今から1500年ほど前のことやな。姚興王という王様がおられて、鳩摩羅什に、このお経を訳すようにと、命令されたんや。」

   「そんなら、鳩摩羅什という人は、通訳をしたはったんでっか。」

御隠居 「まあそんなとこやな。けど、言葉訳すだけの人とは違うねんで。そこに三蔵法師とあるやろう。」

   「はあ、書いてますなあ。これ聞いた事ありますわ。そうそう孫悟空に出てきましたんで。」

御隠居 「そやそや、あの孫悟空に出てくる三蔵法師は立派なお坊さんやろ。そのお坊さんがインドにお経をもらいに行くのが、あの話や。ああやって当時はお経をもらいにいってたんやろなあ。」

   「あの話やったら、途中で色々な魔物が出てきたりして、何度も危ない目に会うてますで。そんな危ないことせんでも宅急便で送ったらええのに。」

御隠居 「何いうてますんや。そんな昔に宅急便なんてありますかいな。それにあの話しはただお経をもらいにいったということをいうてんのやのうて、仏教という尊いみ教えに遇うということは、いのちをかけても惜しゅうないということを教えてくれてるんや。それは私にとって一番大事なもんが仏教なんだぞということでもあるんや。」

『聞法(1995(平成7)年9月1日発行)』(著者:義本弘導)より