沿革

熊はんと御隠居が読む阿弥陀経:その26

   「御隠居はん、ここにある『倶会一処』てどういうことでっか。」

御隠居 「ああ、それはな、ともにひとところに会うということや。ここもな、お釈迦さんが舎利弗に尋ねたはるとこや。」

   「なんて、尋ねたはるんでっか。」

御隠居 「お釈迦さんは、ぜひとも極楽に生まれようと願いなさいと、いわれて、なんでそう願わなあかんか解るかと尋ねたはるんや。」

   「ほんで、やっぱり舎利弗はんは答えたはれへんわけでんな。」

御隠居 「そういうとこやな。そこに『諸上善人 倶会一処』てあるやろ、それがこの答えなんや。」

   「なんちゅう意味でっか。」

御隠居 「すぐれた聖者たちと、ともにひとところで会うことができるということや。」

   「そのひとところて、お浄土のことなんでっか。」

御隠居 「そうや。」

   「そんなら、すぐれた聖者て、だれのことでんねん。」

御隠居 「この前話した一生補処の菩薩のことやで。」

   「そうだっか、そうですわな。わてらなんかあきまへんわな。」

御隠居 「この前、何聞いてたんや。お念仏に出遇うて、阿弥陀さまから信心を恵まれた人は、一生補処の菩薩とおんなじやと、親鸞聖人が明らかにしてくれはったんやでと話したやろ。」

   「ああ、そうでしたな。御隠居はん、そう話してくれはりましたな。そんなら、大丈夫だんな。」

御隠居 「何が大丈夫なんや。」

   「いえねえ。わてはかねがね死んだおとっつぁんに、もう一度会いたいと思うてまんねん。せやから、今の倶会一処の話聞いたら、お浄土でおとっつぁんに会えるんやなと思うて。」

御隠居 「ああ、おまはんのおとっつぁんが死んだ時には、えらい泣いとったな。せやけど、それから、おまはんは、ようお寺へお説教を聞きに行ってたやないか。」

   「へえ、おかげさんで、それからお寺と御縁がでけましてん。」

御隠居 「そうすると、おまはんをお念仏の世界に導いてくれはったんは、おとっつぁんということになるな。」

   「そうでんな、おとっつぁんが死なんかったら、今頃御隠居はんとこんなやって、阿弥陀経を読むこともなかっでっしゃろな。」

御隠居 「そやろ、そういうふうに見ると、おまはんのおとっつぁんは善知識ということになるな。そういう人を上善人というんや。お念仏に出遇うたことから世間を見てみると、みんなが上善人といえるねんで。せやから、お浄土は、懐かしいな、会いたいなと思うてる人と会うていける世界なんや。」

『聞法(1995(平成7)年9月1日発行)』(著者:義本弘導)より