沿革

熊はんと御隠居が読む阿弥陀経:その29

   「このへんは、ぎょうさん仏さんの名前が出てきまんな。」

御隠居 「そうや。ここは六方段ていうて、六方の仏さんが、他力のお念仏こそが、阿弥陀さまのお浄土に生まれていく道であるということを証明し、讃めたたえられてるんや。」

   「六方て何ですんや。」

御隠居 「六方いうたら、方角のことや。ほれここに、東方、南方、西方、北方、下方、上方とあるやろ。」

   「はあ、確かにありまんな。そんなら、東方と、南方のあいだはないんでっか。」

御隠居 「また、ややこしいことをいうやろ。これはな、そのあいだがないんやのうて、全部の方角を代表して、六方を出されてるんや。そんなことより、ここでは大事なことが説かれたるんやで。」

   「今まで聞かせてもろたとこも、相当大事なことやと思てましたけど、ここはよっぽど大事なんでんな。」

御隠居 「そうやで。ここがなかったら、阿弥陀さまのご苦労も水の泡になってしまうんや。」

   「そら、大変なことでんな。それで、どういうことが説かれてるんでっか。」

御隠居 「熊はんは、あそこの角のうどん屋どう思う。」

   「なんですねん、藪から棒に。」

御隠居 「つべこべ言わんと、どう思てるか言うてみ。」

   「そりゃ、あそこのうどん屋、うまいでっせ。また、あのおやじが愛想がようて、食べてて気持ちよろしいわ。けど、こんなことが何の関係がおまんねん。」

御隠居 「ほんなら、なんであのうどん屋がうまいてわかったんや。」

   「そら、あの店ができて、しばらくしたら近所でえらい評判になってたもんやから、一遍行ってみよ思て、行ったらうまかったんですわ。」

御隠居 「そうやな、近所で評判になっとたからな。その近所というのが、阿弥陀さまにとっては、六方の仏さんということなんや。。」

   「あっ、そうか。阿弥陀さまのことが、近所の仏さんの間で評判になったんやな。」

御隠居 「そういうことや。それでな、どういうふうに評判になったかというたらな。仏さんという方は、みな舌が広いそうでな、自分の事について本当の事を言う時には、顔全体を覆うぐらい広い舌を出されるそうや。」

   「なんや、ばけもんみたいでんな。」

御隠居 「これ、またそんなことをいうやろ。それでな、その舌が、公のことで本当の事を言う時には、三千大千世界を覆うほどになるんやそうな。それで、この六方段では、阿弥陀さまの教えを信じなさいと勧められる時に、そうなったと説かれてるんや。」

   「ということは、阿弥陀さまの評判は、うそやないから、その教えを聞くようにと、ほかの仏さんがすすめてくれたはるんでな。」

御隠居 「そういうことやな。」

『聞法(1995(平成7)年9月1日発行)』(著者:義本弘導)より