沿革

お通夜は普段着

 いろいろな行事に出席するとき、何を着ていくのがいいのか、それに迷うことがありますね。たとえば、お通夜の時、どんな服装をされますか。

 近頃、お葬式を家ではされずに、会館とか葬儀式場などを利用されることが多くなりました。その影響でしょうか、お通夜に喪服を着用される人が目に付くようになりましたね。つい最近まで、みな普段着ではなかったですか。そのほうがいいんです。なぜかと申しますと、「通夜」とは「夜を通す」と書きますね。夜を通して何をするのでしょうか。実は、最後のお看取り、看病をさせていただくのです。

 関西地方ではお通夜のことを「夜伽」と申します。「伽」とは、「お伽話」の「とぎ」でして、子供に寝物語をしてその相手をすること、つまり語り相手をし、看病をすることなんです。もうお亡くなりになったに違いないけれど、まだ生きてなさるお姿を装うのです。最後の別れに会えなかった親しき方々が、大急ぎで駆けつけて、ひと夜最後の看病、最後のお看取りをさせてもらうというひと時なんです。だから普段着がいいですね。

 昔でしたら、鳥の羽をお湯のみにそっと浸して、おひとりお一人がその荒れた口許を湿しなさったんだと思うんです。まさに息絶えなんとする、そのおそばに侍って、お世話になりましたねぇ、有り難うございましたねぇ、この上はあなたのお手柄を大切にさせていただきます、と、最後の看病、お看取りをさせてもらう、そういう姿なんですね。

 じゃあなぜ、お通夜にお勤めをするのかと言いますと、あれはそのご当人のお夕事(毎日夕方のお勤め)なんです。ご本人はお勤めしづらいので、皆が代わりにご一緒させてもろうてるわけでして、死んだ人にお経をあげるんじゃないんです。

 このごろ忙しくてお葬式には参れないから代わりにお通夜に行っておく。こういう風潮がありますね。葬儀社によっては、まるで、お葬儀と同じ感覚で、皆にお焼香をさせたり、ご家族をお礼に立たせたりするところがあります。これは間違いです。

 最後のお看取りに駆けつけて来られたお方々が夜を通しての夜伽、まだ生きてなさる姿を装い、語り相手をさせていただく、喪服より普段着がいいですね。香典をことづけるのはちょっと失礼にあたりますよね。お通夜と葬儀式とではお別れの意味が違うのですから。

『聞法(1998(平成10)年9月21日発行)』(著者 :若林眞人)より