沿革

浄土真宗のご利益①

 『がん告知のあとで』という本の著者である鈴木章子さんは、いまから約二十年程前、がんという病の中で数多くの珠玉の詩を残され、四十七年間のお念仏の生涯を終えられました。その中の一編に「おやすみなさい」という詩がございます。

 「お父さんありがとう またあした会えるといいね」 と手を振る。
テレビを観ている顔をこちらに向けて
 「おかあさん ありがとう またあした会えるといいね」と手を振ってくれる。
今日一日の充分が、胸いっぱいにあふれてくる
そして朝は、「お父さん、会えてよかったね」「お母さん、会えてよかったね」と恋人同士のような暮らしをしています
 振り返ってみると、この四十六年間こんな挨拶を一度だってしたことがあったでしょうか。みんな、がんをいただいて気づかされたことばかりです。

 これは、鈴木章子さんの病が進み、転移を繰り返していく中、次第に体力も減退し、自宅療養で付き添ってくれている夫に対して、夫が逆に体を壊してしまわないかと気遣って、寝室を別にされるようになったところから詠まれた詩でありました。鈴木さんは、避けがたい自分の死を、お念仏に出会い、受け入れていく中で人として生まれたことのありがたさ、愛する人とめぐり合えたことの素晴らしさ、そして、その愛する人と苦しみや悲しみを共にして人生を過ごす事ができたことの嬉しさを伝えられ、家族夫婦が交わす何気ない挨拶ひとつにもこんな幸せが隠されていたことを、四十六年間も知らずにいた自分であったことに、驚きをたてておられるのです。がんをいただいた。がんによって気付かされたお陰である。と表現されているのです。そして、そのように病を受け入れることができたのは、ひとえに、どんなことがあっても見捨てることができない。あなたを必ず救う。という揺るぎのない弥陀大悲のお誓いが届けられてあったからに他なりません。

 親鸞聖人は、ご信心を頂くことは喜び多き日々を生きることである。心多歓喜の利益が与えられるのである、と教えてくださっています。私たちの人生の苦しみ、悲しみがどれほど深くとも、その私の苦悩をいつも抱きとめ、ともに悲しんでくださる阿弥陀さまのそのお心をいただく時、ふとした出会い、さまざまな巡り合いのご縁がありがたく感じられてまいります。

『北御堂テレホン法話 2008年1月より』