弔問の心得
ご近所のお方がお亡くなりになったりすると、お悔やみに行かねばなりませんね。その時、どんな言葉をかけたらいいのか、なかなか経験を重ねても難しいことです。駆けつけてこられたお方が、話につまると「お別れをさせていただいてもいいですか」などとおっしゃって、
「どうぞ、どうぞ」となる。そうしてご遺体に神妙に近づかれて、そっと白布を上げなさる。
と、ここで、みょうにほめるお方がおられますね。「まぁ、きれいなお顔で、楽に亡くなりになったんですね。いいとこ往かれましたよ」
と、お顔をほめるつもりだった。ところが、ご病気によってはそうでないこともある。なにかほめなきゃいけませんから、
「まぁ、あったかいお体ですこと、きっといい所に往かれましたよ」
と言おうとしたら、お体はドライアイスで冷たい。
「いやぁ、いつまでも柔らかいお体で、きっといいとこ往かれ……」
と、さわってみたら死後硬直。あわてて、
「やさしいお方でしたから、きっといいとこ……」
そういう死に姿で良いか悪いかなどと評価をしないほうがいいですね。
姉妹で母親の看病にかかり切り、そうしてお別れをなさったある女性の経験談です。そのお母さんは病状が重く、苦しみの中に亡くなっていかれたそうです。お母さんの苦しみをどうすることもできなかった姉妹もまた苦しかったことでしょう。それから、しばらくして、妹さんの嫁ぎ先のお義母さんもお亡くなりになった。姉さんは弔問のお客さんのお接待に行かれます。するとご近所のお方々の言葉が耳に入ってきます。
「楽にお亡くなりになったんでしょ。そらぁいいとこに往かれましたよ」
そのことを振り返って姉さんがおっしゃいました。
「その時ね、妹はつらそうな顔をするのよ。だってね、母はうんと苦しんで死んだでしょ。それだったらいいとこ行ってないみたいじゃない」
「私もね、簡単にそんなこと言ってたけど聞く立場によって辛く感じるのよ」
まさにそうですよね。死に姿をどうこう言うよりも、亡くなったお方のお手柄を偲び、お礼を申し、そうしてお別れなさったご家族の思いを聞かせていただく。それが「弔問」ですよ。「弔」は「とむらう・たずねる」の意味。「問」は「とう」こと。
「たくさんの思い出をいただきましたね、ご生涯を共にできましたこと有り難うございました」と、お礼を申す。弔問とはそういうひと時でありたいなと思うのです。
『聞法1996(平成8)年7月15日発行』 (著者 :小林 顯英)より